グレッグ・イーガン しあわせの理由

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

イーガンが作ったフランケンシュタインの怪物の様な小説。
人間の素を掻き集めて奇怪な生物を創造し、「これだって人間だ!」と言い張る様な作品。
面白い試みではるがグロテスクであることには違いなく、人によっては悪趣味とすら思うだろう。


僕個人としては大いに楽しめた。そしてイーガンの中では格段に読みやすい。
中でも表題作の『しあわせの理由』はお気に入りだ。


しかして。
イーガンは創造したあらゆる奇怪な生物を人間と認めてしまう。
イーガン作品全体にいえることなのかもしれないが、イーガンの言う『人間』の定義は広い。
それは確かにイーガンの優しさだとは思うが、僕には疑問も残った。
イーガンの『人間』の定義が簡単すぎる気がするからだ。


僕はそんなに簡単に『人間』を定義する自信が無い。
『人間と仮定する』という小説なら良いが。
手前が自意識過剰なんだよ! と言われても仕方ないが当然、


『人間』=『己も含む』だ。


利口ぶらず正直に言うと、僕な『人間全体』になんざ関心は無い。
そんなことより『私=個体』であり、『人間とは何か』ではなく『私は何なのか』だ。己個人だ。
個体の事をさておいて『人間の定義』とか全体に話を広げられても納得しかねる。
雪原を見て雪を理解しろという様なものだ。
雪はひとひらで既に雪であり、ひとつひとつの結晶が何なのかを語らずして雪を語るのは腑に落ちない。


イーガンには『人間全体』ではなく、人間という『個体』に関するお話を書いて欲しいなと思う。