屍者の帝国・伊藤計劃追悼特集を読んだ。

 

S-Fマガジン 2009年 07月号 [雑誌]

S-Fマガジン 2009年 07月号 [雑誌]

 伊藤計劃追悼特集を読む。
 すぐに本文を読んでしまうのが勿体無い気がして追悼エッセイから読み始めたのだが、予想通りファンの胸を締め付ける内容であった。
 とくに盟友であった円上塔氏の「how’s project going?」の最後の一文、

 伊藤計劃、新作はまだか。


 これにはもうただひたすら頷くしかなく、言葉も出ない。
 結局そのときは追悼エッセイのみで目頭が結界寸前になって、雑誌を閉じてしまった。


 後日、気分を変えて読み始めた「屍者の帝国」の第一印象は、御大は本当にスナッチャー好きなんだなぁとかいう意外な程あっけらかんとしたものだった。
 遡れば虐殺器官の原型となったのは、SPOOKTALE時代に公開していた「HeavenScape」というスナッチャーの二次創作小説だったし、「虐殺器官MGS4をネガポジ反転です」とどこかで御大が語っていたのを読んだことがある。
 ハーモニーのテーマは、伊藤御大の切実すぎるポリスノーツというところか。


 御大ならそのうち長編でスナッチャーをやるんじゃないか、とファンなら誰しも考えていた筈なので、実際そこは「やはり来たか!」という期待が当たったときの喜びがあった。

 世界観に関しては、以前漆黒のシャルノスについて言及していたときには既にこの構想があったのだろう。

 ゾンビーノを傑作と評したのももしかしたら何かの複線だったのか。


 エロゲに反応した記事に次作への構想を紛れ込ませているのは、ひょっとしたら御大なりのユーモアだったのかもしれない。


 冒頭30ページ、盛り上がり始めたところで「屍者の帝国」は終ってしまうが、哲学的ゾンビならぬ本物のゾンビ=フランケンに制御プラグインをインストールして経済を担わせ、女王陛下のスパイとなったワトソン君がグレートゲームに関わるスパイ活動をするというのだから――


 きっとドロドログチョグチョな大英帝国パンク(?)なヨーロピアン権力図や赤線協定とかがあって、魂プラグインが発明されてフランケンが生者の様に振舞い始めて屍者と生者の境界線が無くなったりして屍者と屍者が戦争をして「生きるとはなんぞや!」みたいな展開が待っていたのだろうか。


 いや、当然僕なんぞの想像力では到底追いつけない様な展開を用意していただろう。
 それが見られなかったのは残念だが、リアルタイムにこれを読むことができた僕は幸せだ。


 話はやや飛ぶが、最近新しくHAIKASORUという日本SFの翻訳レーベルが出来た。
 チラと見た程度だが、野尻抱介小川一水などかなりイマドキな作品が翻訳されているので、そのうち虐殺器官やハーモニーが英訳されて世界で読まれる日が来るかもしれない。
 海外で評価されて、映像化されて、日本でもっと伊藤計劃の名が有名になって、SFファン意外にも語り継がれるかも知れない。


 そしたら次の世代から第二、第三の伊藤計劃が現れて……なんてことがあったら、円上氏が速攻で潰しにかかるのでしょう。でもそんな未来の方が、僕には希望がある気がします。


 桜坂洋の言う様に、伊藤御大の亡くなった世界なんて単なるバッドエンドルートでしかない。